管理職を社内公募するようになった。
本部長や支店長、課長になりたい社員は応募してください、ということだ。募集対象の職級は示されるので、昇進したい人には絶好のチャンスである。上司から昇進を告げられるつもりで働いていた人には、応募によって競争者が増える。公募がない頃は、上司は部下を他部署異動で昇進させるか、自分が異動して後任に指名するが、公募は誰が応募するかわからない。部下を昇進させるために育成したが、異動先も部内も公募にすると、異動先の上長へ推薦することが出来ず、部内であれば、部下を選ぶにも優秀な他部署の応募者がいると、部下の昇進はない。上司は何の権限もないのだ。
そして、恐ろしいことに、自分のポジションも危うくなることがある。
「1月から〇〇本部は新組織になるので、◇◇部(課)のマネージャーを公募します」と宣言され、現職に就いている管理職は沈黙、周囲は該当管理職に声掛けもできないという状態になる。他部署の公募に応募するか、降格である。現在、在宅勤務でテレカンなので、凍り付いた雰囲気は各自のPCの前で起こっているだけで、出席者の表情がわかる会社の会議室で体験することはなかった。
公募の方が、活躍の場が公平に与えられ、キャリアアップも加速するが、公募で決まった管理職は、純粋にその職務に就きたいと思っていても、「出世欲」を体中に貼り付けて仕事をすることになる。退職するまで。給料や指示命令を左右する等級に対する欲望は根深いのだ。なぜか公募に落ちた噂も広まり、公募にまつわる話題は尽きることがない。
出世欲の欠片もないのに管理職になった自分は、公募で心落ち着かない働き盛りの人達に申し訳ないと思う。だからといって、管理職としてのマネジメントを怠ったわけではない。与えられた仕事を愚直にこなす社員も評価していただきたい。
今、働き盛りの人は大変だと思う。過渡期を経験するのは辛いものだ。公募制が一般化する頃、私は会社を辞めている。早く生まれて良かった。