バレンタインの贈り物

ビジネス上でのチョコレート大量配布は過去の風物詩となった。
当時は、出張お土産や差し入れが日常であったから好き嫌いという感情なしでチョコレートを配ることが社交辞令として違和感なく男性に配りまくっていた。翌月の3月14日の机は、お返しのお菓子やハンカチで埋め尽くされた。女子達でこっそり山分けした楽しい思い出である。今はコンプライアンス上問題となるが、10年以上前は各社競って取引先に高価なチョコレートを配っていた。取引先の女子達は大喜びである。
社交辞令でチョコレートを買って配る女子達の中で、手作りのチョコレートを配っていた女性がいた。チョコブラウニー、マカロン、カップケーキ、ガナッシュ等、毎年違う作品が登場する。その日は大きな紙袋を持って出社。ひとつひとつ包装したお菓子を手に「いかがですか」と言いながら配っていた。味は「手作り」の域を超えていなかったが、心のこもったもので心が安らいだ。男性だけに配ると女性からよく思われないからと思ったのかどうか不明だが、男女関係なく配り、男性より女性から大絶賛されていた。
3月14日は女子達から盛大なお返しが贈られた。私もかわいいパッケージの紅茶セットを贈った。
2日前から母親と仕込むらしく、なんと微笑ましい親子だろうと感動した。昇格して偉くなりたいという欲はまったくなく職務等級では同期から遅れているが、性格が穏やかなので皆から慕われている。
子育てでお菓子作りは遠のいているかもしれないが、母親と作った思い出や同僚から絶賛された経験は、彼女の人生の糧となるだろう。
社会人生活の微笑ましい思い出として私の心に刻まれている。